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お礼の短編小説です。

・慰める
 どうしていいか分からないから、取り敢えず頭、だった。
 昔の話だ。まだ操が幼い頃、ぐずったりして泣き出したとき、同様に幼い蒼紫はどうしていいか分からなかった。蒼紫に兄弟はいないし、子ども好きでもない。だが泣き止ませぬことには、どうにも罪悪感のようなものに襲われてしまって、そのままにはしておけなかった。ではどうしたものか、と考えて、取り敢えず頭を撫でてやる。往来でこうしている大人を見たことがあった。あれは母と娘であったと思うが、それを俺がするのか、と思うと無性に気恥ずかしくなった。だから蒼紫はすぐに手を引っ込めようとした。
 だがそれを留めるものがあった。操の手だった。
 小さな操の手が、蒼紫の手首をきゅっと握っている。蒼紫は呆気に取られた。つまり、離すなということだろうか。このままで、これで当たりだということだろうか。分からない。けれど、段々に操の泣き声が小さくなっていることに気がついて、僅かにほっとした。

 とても疲れた日があった。
 特別なにがあったわけではない。ただ毎日の少しずつの積み重ねで、それが溜まりに溜まって、それが心にきていた。腹が立っていた。むしゃくしゃしていた。悲しかった。淋しかった。なにもかも蹴飛ばして当たり散らしたい衝動に駆られ、だがそんなことは許されないという冷静さがまだ残っていて、相反する気持ちに虚しくなる。この衝動を話せる相手もいない。つまり、自身のこのおかしくなりそうなほどの葛藤を知る者は、誰も。誰にも分かってもらえない。おそろしく気弱な自分に嘲笑がこぼれる。
 と、床の軋む音がした。微かな物音すらも拾ってしまう。蒼紫は自棄になりながら、入れ、と吐き捨てた。するすると開く障子。そこからちらりと顔を覗かせたのは、操だった。
 何故。蒼紫は一瞬も動けなかった。そうこうしているうちに、操がおずおずと歩いてきて、蒼紫のそばでぴたりと立ち止まった。部屋の隅。壁に背を預けて座り込む、蒼紫のそば。座った蒼紫と、立った操とで、それでようやく視線がまっすぐにぶつかる。
 操が不思議そうな顔をしたまま、蒼紫の頭に、手を伸ばしてくる。
 「あおしさま」
 ぽん。
 「どうしたの。おなかいたいの。こわいの」
 ぽん。
 「だいじょぶだよ。あおしさま。みさおがいるよ。さびしくないよ」
 蒼紫は放心していた。だからなにが起きたか分からなかった。なにも言えなかった。蒼紫が寝てしまったとでも思ったのだろうか。操の手の動きが止まって、あおしさま? と、声を掛けられる。その体を思い切り抱き寄せた。離してほしくなかった。なにも分かっていないはずの、こんな子どもに、それでも離してほしくなかった。なにも分かっていないはずだから、思い切り抱き締めて、少しだけ鼻をすすったところで、きっと大丈夫だろうと思った。